当社の記事が、ビジネスセンター社 月刊「食品機械装置」2024 年8月号に掲載頂きましたので、お知らせいたします。
作業負担軽減と業務効率化に貢献する最先端のAGVおよびAMR
株式会社GEクリエイティブ 越後 巧
監修 徳島大学 大学院 社会産業理工学研究部 浮田 浩行
1.はじめに
惣菜製造業において,盛り付け・調理・包装に次いで機械化が求められているのが搬送と言われている。また食品によっては「むろ」での熟成など人体への負荷が高い場所への搬送もある。そこで当記事では食品製造業における横搬送の自動化について紹介する。
横搬送の自動化,AGV・AMRの導入においては以下のような懸念を聞くことがある。当記事においては,それぞれの懸念に対して当社グループの経験を基に対策を提示する。
2.環境対策
惣菜製造工程において,盛込み工程は横搬送ロボットの導入が難しいと言われている。何故なら機器を丸洗いに対応する必要があるからだ。丸洗いができないとメンテナンスに時間が取られてしまい,それがコスト上昇の原因にもなる。従い,およそ機器は全ステンレス,あるいは焼付塗装が必要とされ,また制御盤などの電気回路部分はシーリングによる工夫が必要になる。
また,濡れ場は勾配があって一般的にはまともに走れない。路面が濡れている場合はウレタン製だと加水分解による劣化が進むため,ゴムタイヤを推奨することになるが,ゴムタイヤはゴム片が異物混入の原因になる可能性がある。タイヤにはほかにも素材の種類があるので適宜検討することになる。また実際に走行試験を行い,スリップなど問題がないことを実際に確認する必要がある。
食品製造工場は機械製造や物流倉庫とは違い,温度・湿度などの環境対策が必要となる。基本的に車体素材として防水対応可能な素材で作られたものを採用することになるが,IP取得を前提とした車体開発をしてしまうと大変高価なものになってしまう。環境対策は規格準拠を目的とするのではなく,運用ベースで実績のある手法を用いることが推奨される。車体の防水対策については,床面の濡れ程度であれば底面を板金で覆いシーリングを施すことで実用に耐える仕様にすることは可能だ。湿度対策については,電子機器への負荷を懸念されることが多いが,具体的に一番の問題は結露だ。電子機器の2重ケーシングなどで温度変化を下げることや,送風によって故障のリスクを下げることができる。
導入の際に,車体表面への「アルコール」「カンファ水」などでの消毒,車輪の新品交換(雑菌持ち込み禁止),着日から期間をおいての現場での組み立て運行(菌検査期間対応)などができるかどうかの事前確認も重要だ。
現在,横搬送ロボットの導入が進んでいない理由として,一部だけを自動化しても効果を出しにくい点がある。仮に盛込み工程前後だけを自動化しても,資材,容器,副菜具などは人で運んでいることが多い。同時にほかの工程を自動化しなければ効果が少ない。また食品工場は狭い場合が多く,稼働中の工場の自動化は難しい。工場の設備配置検討をしているタイミングなどでなければ検討自体が難しいのである。そして,食品は軽いので無理に機械でなくても運べる。その結果,人手を頼り投資性向が上がらないのである。
とはいえ,その他の物流工程,フィルムや箱,容器などは自動化できる領域がある。後述にて紹介するが,今後の労働力不足は避けて通れない状況である。盛り付け工程の横移動も待ったなしの状況だと考えている。まずはできるところから横搬送の自動化を検討し,横展開を進めて欲しい。
3.機器連携の問題
多くの機械がPLCで制御されている。当社のAMRはPCベースでの駆動となるが,さまざまな機器との連携が可能で,機械からの呼び出し信号を基に指定場所での移載などにも対応する。
またAMR・AGVの導入にあたっては当社ではすべてワンストップにて対応が可能だ(RFID連携,Li-ion電池,非接触充電,安全保護回路,上位システム連携,運行管理,その他外部機器連携,など)。
4.走行の原理
AMR・AGVとも走行原理は基本的に同じだ。センシング技術にはさまざまなものがあるが,センシングによって得た情報を基に,モータードライバを制御する点では同じだ。代表的なものについて簡単に紹介する。
4.1.ガイド式(AGV:Automated Guided Vehicle 無人搬送車)
色付きのライン(線),あるいは磁気テープに沿って走行するタイプ。前者はLEDなどの発光・受光素子を用いてラインのエッジ(端)の照度を計測し,閾値を基にガイドに沿って走行する。後者は磁気テープからの磁気強度に閾値を設けて磁気テープのエッジ(端)を計算し,ガイドに沿って走行する。
4.2.無軌道式(AMR:Autonomous Mobile Robot 自律走行搬送ロボット)
LiDARといわれるレーザー光を用いたセンシング技術や,カメラ画像を用いて無軌道で走行するタイプ。いずれも車体自体が仮想地図を持ち,LiDARやカメラのデータを基に仮想地図上で自己位置を計算することでガイドレスでの走行を可能にする。LiDARを使った自己位置推定の原理については次項にてより詳しく紹介する。
4.2.1.LiDAR を使った走行原理
まず車体自体が仮想地図を持つ。仮想地図はLiDARによる測距データを基に作成する。2DLiDARであれば2次元の地図を,3DLiDARであれば3次元の地図を作ることになる。
次に作成した仮想地図と,実際に測距した現実との位置合わせ(自己位置推定)を行う。仮想地図上で自己位置推定には,逐次モンテカルロ法を用いる。
逐次モンテカルロ法とは逐次ベイズ推定の一種で,現在の状態から想定される次の状態を予測しながら追跡を行っていくアルゴリズムだ。車体が逐次移動して得られる実際のデータ(LiDARの位置と壁の位置)と,仮想地図上で予想されるデータ(LiDARの位置と壁の位置)を比較して一致度の高いところを自己位置とする。この一致度の計算には尤(もっと)もらしさを表現する尤度(ゆうど)関数が用いられる。尤度関数とは,未知のパラメータが与えられた下で,観測されたデータが得られる尤もらしさを表現するもので,言い換えると結果からパラメータを推測するものだ。そのパラメータが仮想地図上での移動である。この移動距離の推定にパーティクルフィルタが用いられる。パーティクルフィルタも,ランダムサンプリングを用いて確率分布や性質を推定する逐次モンテカルロ法の一つであり,仮想地図上で次の移動先で予想されるデータ(LiDARの位置と壁の位置)の点群を作り,その尤度を計算する。
ただし誤差を全く排除することはできないため,自己位置推定の精度を上げるためにはオドメトリなど補完技術を使う。
4.2.2.現場確認の重要性
自己位置推定の補正は,カーナビと同じようにほかのセンサー情報を使って行う。今回はオドメトリという車輪やステアリングの回転角度からの累積計算からロボットの位置を推定する手法を紹介する。オドメトリ計算に必要な代表的なパラメータが駆動輪の直径,左右のタイヤの中心間距離であるトレッド幅だ。ただしカタログ値どおりの設定では精度が出ない場合がある。導入に向けては,タイヤ径・トレッド幅などの各種寸法だけでなく,機械誤差,路面の状況,またエンコーダの精度など多様な外部要因を考慮する必要がある。
LiDARも使用環境によっては誤差が発生する。LiDARは赤外線波長を利用するため,野外で利用する場合は自然光がノイズとして検出されてしまう。そのため太陽光ノイズを除去するノイズフィルタを適用させる必要がある。フィルタの例としては,特定地点の連続スキャンの回数や受光強度データの閾値設定などがある。ただし,フィルタを適用することによって精度に影響を与える可能性がある。
このように現場でのさまざまなパラメータ調整が重要になってくる。
4.3.実用可能性の検討
自律走行には環境に応じてさまざまなセンサーを用いたテストが必要だ。ガイドレスで運行の場合,一般的には下記のようにPhaseに分けてテストする。多くの工場では人の動線を最優先に通路が作られていたり,事業拡大に伴い設備の追加が行われ,ロボット搬送においては通路幅や回転半径が小さい場合が多い。また路面の条件も多種多様で,実際に走行できるかどうか試す必要がある。走行のめどが立てば,実際の運用に向けた具体的な導入検討Phaseに入る。
5.ソフトウェアが自動化促進のカギ
ロボットなどの導入による自動化推進の波が進んでいる。伝統的市場においては展示会で見られるような大型ソリューションの導入も進んでいる。しかし自動化の普及において課題になるのがそれ以外の企業だ。会社の規模や事業形態によっては投資性向が低く大型のソリューションを導入することは難しい。また自動化に係る専門人材も不足しており,ソフトウェアの統合が壁となって自動化が進まない場合もある。解決策として提唱されているのが外部SIerによる導入支援の促進だ。そこで鍵になるのがソフトウェアの開発だ。
最適なソフトウェアを作ろうとするとスクラッチ開発(既存のソフトウェアやシステムのフレームワークを使わずに,ゼロベースでシステムを開発する手法)を選びたくなる。しかしそれでは費用も工数もかかってしまう。そこで,日本におけるロボット技術および産業IoT技術の普及と発展を目指して設立された団体「ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会」が推奨しているのがオープンソースソフトウェアの活用だ。
オープンソースソフトウェアについては,その信頼性を不安視する人も多い。しかし実はオープンソースソフトウェアのほうが多くの人が評価に携わっており,ロバスト性が高いとも言える。誰もが使う機能はオープンソースソフトウェアに任せ,各案件固有のノウハウ作りにソフトウェア開発の工数を使うことが求められる。
ロボット制御に適したオープンソフトウェアにROS(Robot Operating System)がある。ROSは米国ベンチャーWillow Garageが2007年に開発を開始したものでオープンソースソフトウェアとして広くコード公開されており,ロボット機能要素をモジュール化して提供している。日本でも大手企業が採用しており,学術分野ではデファクトスタンダードとなっている。
ROSの特徴:キラーアプリケーションによって人気を獲得
● rviz:ロボットのさまざまな状態を3D表示
● MoveIT!:アームの軌道計画
● Navigation Stack:地図作成・経路計画
ROSに含まれる自律走行を実現するための主な機能
● 地図の読込保存管理
● 動作ツリーの作成
● 地図上で番地作り
● ルート設定
● ロボットの自己位置推定
● 障害物のコストマップを作成
● 障害物を避けながらルートを自動生成
● 計画経路の平準化
● 衝突監視検出
当社のAMRもROSをベースに開発を行っている。また当社は業務系ソリューション,製造管理系ソリューションなどユーザーインターフェースの工夫が直接便利さにつながるようなソフトウェアの受託開発も行っている。従いAMRの操作アプリについては,SIerが不要でお客様が直接操作して導入できるような簡単で使い易いインターフェースが重要と考え開発を行っている。
6.広がるAGV・AMR の使用用途
従来機械化は人ができないことの代替えとして進化してきた。例えばフォークリフトの機能である重たいモノの横移動や段積みだ。従い,重工業や大量生産が行われる工場から機械化が進んできた。
しかしこれからは,ロボットによる人の代替が進むと考えられる。理由は日本の労働力の減少だ。生産年齢人口と1人当たり年間総労働時間は減少の一途だ。これらは特に製造業や物流業に特に大きな影響を与える。物流業は波動という急激な仕事量の変動に耐えられるように多くがアルバイトで構成されている。当社にて物流業におけるアルバイト就労予測を計算してみたところ,下記表のとおり大きく減少する。今は人の代替え用途としてロボットの予防的投資が必要な段階になってきていると考える。
6.1.導入のし易さが重要
先ほど紹介した物流現場では9割以上がアルバイトで構成されている。このようにアルバイトの構成比が多い現場では技術の踏襲が難しくなる。バーコードリーダー一つとっても平易な使い方で共通化ができないと導入が難しい。このことが自動化が進まない理由の1つになっている。従い,使い易さを追求することが非常に重要だ。
また,投資性向の少ない企業に対しては安価なソリューションを提供する必要がある。AGV・AMRの特徴として導入時の初期費用の違いを挙げたい。AGVの導入においては,一般に制御盤の開発,コース設計,さまざまな機器連携,また出荷時・導入時における立会,最終的な運行チェックなど,導入完了までに多くの人手がかかり,車体以上の費用がかかってしまう。AMRに関しては,お客様自身で導入が可能なため,導入初期コストを下げることができる。
6.2.導入しやすいAMR
このような状況で当社が昨年アナウンスしたのが,導入しやすいAMRだ。多くの企業が自社の自動化促進のために展示会などに参加し情報を収集している。しかし直接自社の課題解決につながるソリューションを見つけることは難しい。幸い当社グループ会社には55年間搬送の現場を見てきた搬送機器メーカーがあり,以下のような現場の声を聞いている。
● 通路が狭くて従来の搬送車だと導入できない
● けん引物が低床で潜り込むことができない
● 防水対応が必須で該当機器が無い
● 高価で導入できない
● 作成した経路計画を平滑化したい
● 搬送のために特殊なけん引治具やフォークがない
● 導入するための現場エンジニアがいない
⋯etc
これらの課題を解決するために,当社は昨年10月に行われた第3回名古屋スマート物流EXPOにて次の2種類の商品をアナウンスした。
AMR-180
現場のニーズとして多いのがカゴ車の自動搬送だ。カゴ車には4輪自在輪が多く,けん引すると振れが発生してしまう。後輪2輪を固定輪とした場合でも,多くの工場では通路幅や回転半径が小さく,けん引タイプのAMRでは搬送が難しい。またリフトアップ式が求められるが低床型のモデルが少なく,人の手による搬送が続いている。
そこで当社が考えたのがAMR-180だ。リフトアップ機構を持つAMRとしては国内最低床クラスとなる高さ180mm,サイズは約600mm×600mmでカスタマイズ可能,可搬重量は500kg。カゴ車の下に潜り込むことで搬送が可能だ。車体の中心を軸に回転することができる2輪差動のため,導入が難しかった狭い通路でのカゴ車搬送などが可能となる。超低床設計のため,既存の手動搬送機材の下に設置でき,いまお使いの台車など搬送機材を自律走行が可能な自動搬送ロボットとして運用することが可能だ。
AMRキャリ太郎
もうひとつは操作用のインターフェースをとにかく簡易にしたAMRキャリ太郎だ。キャリ太郎はセンコー商事が販売する安価でシンプルなAGVで牽引能力は自重含めて500kg。手袋をしたままでも操作できて多くの場所で活躍している。この使い易いキャリ太郎をAMRに改造し,さらに導入の閾値を下げた。オプションにより防水仕様とすることも可能で,屋外や湿度の高い条件での使用も可能となるため,食品製造工場や野外を含めた建屋間の搬送にも対応する。
6.3.既存シャーシの改造
お客様の環境は多様で,前述のモデルだけでは対応することができない場合もある。その場合当社はソフトウェア開発会社であり,他社の車体をAMR化することも可能だ。車体を交換することなくAMR化したい場合はお問い合わせいただきたい。
7.横移動の啓蒙活動
AGV・AMRは簡単な横移動の自動化を実現するものである。この横移動,ニーズとしては意外と顕在化されていない。会社によっては製造技術や物流管理部門がないところもあり,その場合は課題が顕在化されにくい。また導入検討時においても費用対効果を求める声が大きい。AGV・AMRは横移動のみの自動化のため,フォークリフトの代替えにならず導入の動機にはしづらい。しかしフォークリフトの機能を段積みのみに限定することでAGV・AMRの導入により単純搬送に係る労務時間を削減することができる。このような検討を進めていただくためには,啓蒙活動が必要だと感じている。
そのためにYOKOIDOというサービスブランドを立ち上げた。専門家でなくても横移動の自動化検討のソースにたどり着く機会を増やすことを目的としている。HPだけでなくSNSも開始している。HPでは最新の記事を随時更新しているのでぜひ確認して欲しい。
Instagram:https://www.instagram.com/yokoido.amr/
X(旧Twitter):https://x.com/YOKOIDO_amr
株式会社GE クリエイティブ
当社グループは,システムインテグレーション,保守メンテナンスまでを担うITソリューションカンパニーである。グループ会社に搬送の現場を55年間見てきた搬送機器メーカーがあり,AGVについてはすでに25年前からの取り扱い歴史がある。豊富な経験を活か
し,AGV・AMRの製造販売およびカスタマイズから導入までを一貫してサポートする。
【月刊 食品機械装置】
唯一の食品機械装置に関する技術資料を掲載し、国内はもとより海外でも購読されている月刊誌です。生産技術に直結した技術誌として、食品工場のレイアウトから自動化の問題、各種機械装置の特性、機械設計上の問題及び保守管理、更には最新の技術情報に関する技術的な論文の掲載に重点を置き、食品を生産するための実際的なデータを中心に、直接製造技術者に役立つ記事を掲載されています。
サイトはこちら
・株式会社ビジネスセンター社発行
・月刊 食品機械装置 2024年8月号掲載
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