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人がいなくなる社会で、ロボットに人間が合わせるという考え方― LCI Robot Infra Forum 2026から考えるロボット社会実装 ―

2 時間前
読了時間: 8分

2026年9月、Octa Roboticsが開催した「LCI Robot Infra Forum 2026」に参加しました。YOKOIDOもLCI認定を取得したロボットメーカーとして、認定取得の背景やLCI対応開発で苦労した点について、当社が回答したインタビュー動画で参加しました。


本稿では、フォーラムで特に印象に残った「ロボットフレンドリー」「建物インフラ」「安全規格」「人間側の運用」という視点から、ロボット社会実装について考えます。


Octa Robotics主催「LCI Robot Infra Forum 2026」の講演会場
LCI Robot Infra Forum 2026 会場の様子

人手不足ではなく「人がいなくなる」ことを前提に考える


ロボット導入は人件費削減や省人化という投資対効果で語られがちですが、より大きな問題は、将来サービスを担う人そのものが不足することです。特に医療・福祉分野では、厚生労働省のシミュレーションで2040年に約1,070万人、総就業者の18~20%が必要になるとの推計も示されています。おおむね「働く人の5人に1人」です。


こうした社会では、ロボット導入を「人より安いか」だけで評価するのではなく、「将来もサービスを維持できるか」という事業継続性から評価する必要が出てくると考えています。


ロボット普及を阻む「建物」という壁


サービスロボットの用途は搬送、配膳、配送、清掃、警備、受付、案内、点検などに広がっています。一方、実際の建物は必ずしもロボットが自律移動する前提で作られていません。「縦の障壁」であるエレベーター、「横の障壁」である自動ドア、セキュリティゲート、防火扉などを越える必要があります。


さらに実環境では、通信環境や自己位置推定など、ロボット自身の技術で解決すべき課題も残っています。一方で、すべてをロボットの高性能化だけで解決しようとすれば、機体や導入コストは上昇します。そこで、エレベーターや自動ドアとの連携、段差・傾斜などの物理環境、ロボットが利用しやすい標識や運用ルールなど、施設・業務側もロボットが活動しやすい環境へ変えていくのが「ロボットフレンドリー」という考え方です。


建物とロボットをつなぐLCIと国際標準化


そこで日本では、ロボットフレンドリー施設推進機構(RFA)が、エレベーターや自動ドア、セキュリティなどとロボットを連携するための共通規格を策定しています。Octa RoboticsのLCI(Linkage Cloud Interface)は、RFA規格等に対応し、異なるロボットと建物設備を共通の仕組みで連携させるためのインターフェースサービスです。


興味深いのは、日本で進められてきたこの考え方が、日本国内だけで完結せず、東アジア、さらに国際標準化へ広がりつつあることです。 フォーラムでは、シンガポール、韓国、台湾などでも、日本と共通する考え方でロボットと建物設備の連携に関する規格が整備され、共通化・相互運用を目指す流れが紹介されました。


  • SS 713(シンガポール):ロボットが建物設備と連携するためのデータ通信・インターフェース。LCI経由で利用可能

  • KS B 7317(韓国):ロボットがエレベーターを利用する際の安全要求規格。LCIと類似する考え方

  • CNS 18823(台湾):移動ロボットの共通通信プロトコル→RFA規格を使ってよいと明記


さらに国際標準化においても、ISO/TC 299のWG 15(Infrastructure for Robot Applications)で、ISO 26159シリーズの策定が進められています。ISO 26159-1はロボットが利用するインフラ全体のフレームワーク、ISO 26159-2はエレベーターと自動ドアとのインターフェースを対象としたものです。


関係を簡略化すると、次のようになります。


ロボットが利用するインフラ

ISO/TC 299(ロボティクス分野の標準化組織)
└─ WG 15(Infrastructure for Robot Applications)
    └─ ISO 26159シリーズ(国際規格・策定中)
        ├─ ISO 26159-1:全体フレームワーク
        └─ ISO 26159-2:エレベーター・自動ドアとのインターフェース

ISO 26159-1ではエレベーターや自動ドアだけでなく、セキュリティ、共有空間管理、警報、通知、監視などもインフラ要素として想定されています。つまり、ロボット単体ではなく、「ロボットが活動する建物そのもの」を標準化の対象にする動きと見ることができます。


ISO 26159シリーズで検討されるロボット向け建物インフラとエレベーター・自動ドア連携
ロボットが利用する建物インフラの国際標準化。ISO/TC 299ではISO 26159シリーズの策定が進められている


建物を変えても、人間がルール通りに動くとは限らない


しかし、建物をロボットフレンドリーにすれば終わりではありません。実際に導入すると、人間側に設定した運用ルールが必ずしも守られないという問題が出てきます。フォーラムでは、エレベーターにロボットと一般利用者が同乗したことで、利用者が行先階を操作できないといった具体的な事例も紹介されました。


人間側に「ここを空けてください」「この時間はロボットを優先してください」と決めても、それが何年も守られるとは限りません。一方で、ロボットの運用を夜間に限定するなど、人間側の運用を少し変えることで成立するケースもあります。つまり、ロボットフレンドリーには建物側の対応だけでなく、人間側の行動まで含めた運用設計が必要になります。


サービスロボットに必要となる「運用側」の安全規格


産業技術総合研究所の講演では、ロボットの社会実装を、ロボット本体の安全を担う「ハード」と、運用時の安全管理を担う「ソフト」の両面から考える必要性が示されました。


産業用ロボットでは、ロボット本体の安全と、それを使用する組織・職場の安全管理について、すでにそれぞれ規格が整備されています。一方、サービスロボットでは製品安全の規格はあるものの、サービスとして運用する側の安全マネジメントに関する国際規格がありませんでした。


余談ですが、国際的な安全規格を日本の現場で見ると、「ここまで必要なのか」と感じることがあります。国際規格は特定の文化や現場慣行を前提にできないことも、その理由の一つではないかという指摘がありました。


フォーラムでは、まさにこのサービスロボットを運用する側の安全管理について言及がありました。その代表がISO 31101:2023です。


サービスロボットの製品安全と運用側の安全マネジメントを示したISO 31101の説明資料
サービスロボットでは、製品安全だけでなく運用側の安全マネジメントも重要になる

ISO 31101は「ロボット本体」ではなく「運用」を扱う


機械・ロボットの安全に関係する規格を大きく整理すると、ISO 12100は機械安全の基本原則とリスクアセスメント、ISO 10218は産業用ロボット、ISO 13482はパーソナルケアロボット、ISO 45001は組織の労働安全衛生マネジメントを扱います。


機械・ロボットと安全管理

ISO 12100:機械安全の基本原則・リスクアセスメント
├─ ISO 10218:産業用ロボットの安全
└─ ISO 13482:パーソナルケアロボットの安全

ISO 45001:組織・職場の労働安全衛生マネジメント

ISO 31101:サービスロボットを使うサービスの安全管理

ここで特徴的なのがISO 31101:2023です。これはロボット本体の製品安全規格ではなく、サービスロボットを使ってサービスを提供する側の安全マネジメントを対象とします。対象には、空港や商業施設での案内、病院での物品搬送、飲食店での配膳なども例示されています。


フォーラムでは、ISO 31101に続いて、ロボットサービスを実環境へ導入する際の前提条件や確認プロセスを扱う「導入マネジメント」に関する追加規格の検討も紹介されました。建物というハードインフラだけでなく、人間の運用や管理というソフトインフラまで標準化しようとしている点が印象的でした。


ISO 31101とロボットサービスの導入マネジメントに関する追加規格の検討資料
ISO 31101に続き、ロボットサービス導入時の前提条件や確認プロセスを扱う「導入マネジメント」の規格化も検討されている

YOKOIDOもLCI認定メーカーとして動画参加


YOKOIDOもLCI認定を取得したロボットメーカーとして今回のフォーラムに参加しました。会場では、認定取得の背景やLCI対応開発で苦労した点について、当社が回答したインタビュー動画が上映されました。


当社は以前、PLCを使ったエレベーター連携の設計を見ており、信号やパルスなどを使って一つずつインターロックを組む方法を理解していました。その経験からLCIの仕様書を読んだ際、従来PLCで実現してきたインターロックの考え方が、ソフトウェア上のコマンドとして整理されていると感じ、非常に理解しやすい仕様でした。


また、仕様書や参考資料が充実していたことに加え、シミュレーターで動作確認できるためデバッグもしやすく、LCI対応そのものは想像以上にスムーズに進みました。





ロボットに人間が合わせる、という考え方


前述した日本、シンガポール、韓国、台湾など、東アジアではこうした考え方に関係する規格整備や共通化が先行して進んでいます。


講演で特に印象に残ったのが、ロボットに対する文化的な捉え方についての話です。欧米では「ロボットは人間の指示通り正確に動く機械」として捉える傾向がある一方、日本ではドラえもんに象徴されるように、「ロボットと人間が一緒に暮らす」というイメージを比較的受け入れやすいのではないか、という趣旨の指摘でした。


もちろん、欧米と東アジアのロボット観を単純に二分できるわけではありません。しかし、ロボットだけを人間社会に合わせるのではなく、建物も、人間の運用も、少しずつロボットに合わせる。そして、そのための共通ルールを作る。この考え方は、人が減少する社会でロボットを普及させるうえで重要になるのではないかと感じました。



なお、筆者および当社は安全規格・国際標準化の専門機関ではありません。本稿はLCI Robot Infra Forum 2026で得た情報をもとに、AMRメーカーの立場から整理・考察した研究ノートです。各規格の正式な適用範囲や要求事項については、ISO・JIS等の原文や専門機関の情報をご確認ください。

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